大学受験と大学進学は、それ以降の人生を決める大きなきっかけとなるものです。そしてそのための前準備は、高校入学~高校でのコース選択の時点で始まっています。特に理系・文系の選択は大きいもので、ここで理系のコースを選ぶと文系の大学に進むことが、文系のコースを選ぶと理系の大学に進むことが難しくなります。ただそれでも、「理系のコースに進んでいたが、文系の大学を受けたい」「文系のコースに進んでいたが、理系の大学を受けたい」と考える人もいます。前者は「文転」と呼ばれますが、ここでは「文転とは何かの詳細」「文転の決定はいつまでに行うべきか」「文転のメリットとデメリット」「文転を決めた際に考えたい、国公立大学に進むか私立大学に進むかの見極めた方」について解説していきます。
目次
文転とは、理系のコースを歩んでいた人が文系のコースに変更すること
文転とは、「高校で理系コースに進んでいた人が、大学受験のときに文系の大学を受けることまた文系コースに変更すること」をいいます。
ちなみに、文系コースに進んでいた人が理系の大学を志すことは「理転」と呼ばれます。
ここでは理転のことは大きくは取り上げませんが、基本的には文転よりも理転の方が難易度は高いといえます。
多くの高校では、基本的には高校1年生の12月までに文系コースに進むか理系コースに進むかを決めます。
そして高校2年生に上がった時点からどちらかのコースで勉強を始めます。
また、学校によっては高校2年生の冬にさらにコースの選択が行われ、高校3年生からそのコースの勉強を始める場合もあります。
―――スケジュール例
- 高校1年4月:入学。文理の区別なし
- 高校1年12月まで:文系コース・理系コースの選択を行う
- 高校2年4月:文系コース・理系コースに分かれて、各クラスでそれぞれ授業が開始される
- 高校2年12月まで:学校によっては、さらに、「理系国公立コース」「理系私立コース」「文系国公立コース」「文系私立コース」などのように、細分化したコース選択を行う
- 高校3年4月;細分化したコースに分かれて、各クラスでそれぞれ授業が開始される
- 高校3年生秋以降:受験開始
上記のスケジュール例からも分かる通り、多くの高校では、2年次と3年次の2年間をかけて、理系もしくは文系の勉強をしていきます。
たとえば理系コースに進んだ場合、国語(現代文・古典など)のカリキュラムの数は非常に少なくなります。
逆に文系に進んだ場合、数学は数学I・Aまでで終わるということもよくあります。
このように学ぶ内容が大きく変わってくるため、理系コースに進んだ人が文系大学を志望しようとした場合、初めから文系コースに進んできた人とでは積み重ねてきた勉強時間の差が大きくなります。
また、場合によっては、受験そのものが難しくなることもあります。
ただそれでも、「やはり文系の大学に進みたい」と思った場合は、よく考えたうえでならば、文転をするのもひとつの方法です。
※厳密には大学に入った後に、理系学部から文系学部に転部すること」も広い意味では文転といわれます。しかしここでは、特段の説明が必要になる場合を除き、「高校のときに理系のコースを選んだ人が、文系の学校を志すこと」を文転として解説していきます。
文転の決定は、基本的には高校3年生に進学した段階までに行う
「理系コースにいたが、文系の大学に進みたい」という場合は、基本的には高校3年生の4月段階までに決定します。
上でも述べた通り、理系コースに所属していた場合、文系大学の受験に求められるカリキュラムが非常に少なくなります。
3年生に進むとこの傾向はさらに顕著で、学校やコースによってはほぼ国語系のカリキュラムがなくなることすらあります。
また理系にそのまま所属していた場合、非常に専門的な分野である数学Ⅲおよび数学Cの履修が必要になってくるため、「自分が受けようと考えている文系大学では、必須ではない科目」の勉強をする必要が出てくるのです。
このため、基本的には文転の決断は高校3年生の4月前(高校2年生の3月くらいまで)に行うべきです。
また、どれほど遅くても、高校3年生の7月、最後の夏休みに入る前には進路を決めましょう。
夏休みは受験の天王山といわれていますが、逆に言えば、この時期までにしっかりと進路を決めて夏休みに勉強に打ち込めば、文転であっても受験に成功する確率が高くなります。
文転は、理転に比べるとやや難易度が低いこともあるため、大学のレベルによっては夏休みに一生懸命勉強すれば合格ラインに達することができるでしょう。
ただ、「私立理系コースに所属していたが、そこから文系に転向する」という場合は難易度が上がります。
国公立理系コースとは異なり、文系科目をほとんど履修していないケースもあるからです。
私立文系コース→理系大学への理転に比べればそれでも難易度は落ちますが、勉強時間を確保するために、高校2年生のときに転向を決めるのが基本といえます。
もちろん、もっと早い段階で文転を決められれば、それが理想です。
なお、文転にせよ理転にせよ、「今まで学んできカリキュラムを中心とした大学ではなく、文系の(あるいは理系の)大学に進みたい」という気持ちが固まったのなら、早い段階で学校の先生や親御さん、また塾や家庭教師を利用しているならばそこの講師にも話すようにしましょう。
場合によっては、時間を割いて補習などを行ってくれる場合もあります。
また、「この科目が必須だと思っていたが、実際には必須ではなかった」などのような見落としにも気づきやすくなります。
【難易度と、それぞれのコース選択のタイミング】
| 難易度 | 時期 | |
|---|---|---|
| 私立理系コース→私立文系大学 | 4 | 高校2年次の3学期までに行うのが望ましい |
| 私立理系コース→国公立文系大学 | 3 | 高校2年次の3学期までに行うのが望ましい、遅くても高校3年の4月になる前に |
| 国公立理系コース→私立文系大学 | 2 | 高校3年になるまでに |
| 国公立理系コース→国公立文系大学 | 1 | 高校3年の4月になるまでに行うのが望ましい、遅くても高校3年生の夏までに |
| 【補足】私立文系コース→理系大学 | 5 | 高校2年次の夏休みまでに行いたい |
| 【補足】国公立文系コース→理系大学 | 3~4 | 高校3年の4月になる前に行いたい |
※ただし受験する大学や、受験時に選ぶ科目によって難易度は異なる
※ここでは大きくは取り上げないが、浪人をしている人の場合は、現役生に比べて難易度はさらに上がる傾向にある
文転のメリットとデメリットについても知っておきたい
文転は大きな決断です。一度文転を決めてしまえば、「やはり理系に戻る」などのような方法も取りにくくなります。
受験勉強のために割ける時間は有限ですから、文転を決める前に、「本当に文転をするのか」をしっかり考えなければなりません。
そして文転をするかどうかの決断を下すためには、文転の持つメリットとデメリットを知っておくことが重要です。
ここでは、文転のメリットとデメリットを解説していきます。
文転には多くのメリットがある・行きたい学部にいける
まずは「メリット」からです。文転のメリットは、以下の通りです。
- 行きたい大学、学びたい学問を学べる
- 文系大学の方が比較的入りやすい
- 数学が得点源となり得る
ひとつつずつ見ていきましょう。
- 行きたい大学、学びたい学問を学べる
文転は、理転よりも簡単であるため、文転のメリットをピックアップしようとするとしばしば消極的な理由ばかりが取り上げられがちです。
しかし文転のもっとも大きな、そしてもっとも根源的なメリットとなるのは、やはり「行きたい大学、学びたい学問を学べる」ということです。
将来を見据えて高校のコースを選ぶ生徒は非常に多く、またそうでなければなりません。
しかし10代の半ばはいろいろなものに触れる時期であり、興味も移り変わりやすい時期です。
そのため、「理系に進んではみたものの、この3年間で文系の学問の方に魅力を感じるようになった」などのようなこともよくあります。
そして「今後大学では文系の勉強をしていきたい」と考えるようになる人もいるでしょう。
文転においてもっとも重要なのは、この「学びたい大学・学びたい学問のために文系に進む」という気持ちです。
このように積極的な理由から文転に踏み切った場合、勉強のモチベーションも維持しやすく、受験勉強における「息切れ」がしません。
覚悟と持続力をもって受験勉強に打ち込むことができますし、その分合格もしやすくなります。
また、文系の学科は非常にバリエーションが多いことも魅力です。
文系の王道である「文学部」「教育学部」「法学部」はもちろん、経営学部や商学部も文系学科に含まれます。
また、文学部と並んで有名な「外国語学部」は特にそのなかでも選択肢が豊富です。
英語やフランス語、中国語などのなじみ深い外国語はもちろん、スワヒリ語やラテン語、カンボジア語を習える学校などもあります。
加えて、併願のバリエーションが富んでいるところも多く見られ、より自分に合った学問・より自分に合った受験方法を選ぶことができるようになります。
ちなみに、現在日本で学位を取得している人のうちの65パーセントは文系です。
- 文系大学の方が比較的入りやすい
文転も理転も両方とも非常に重要な決断となりますし、難しさをはらむものです。
しかし上でも述べた通り、理転に比べると文転は難易度が低い傾向にあります(※現在のコースや学力レベル、志望する大学やその科のレベルによっても異なります)。
また現在の大学受験では理系の受験でも英語力が求められることも多いため、理系コースでも英語を学んでいる人が大半かと思われます。
そしてこの「英語」は、文系の大学を受けようとする場合、ほぼ必須で求められる科目です。
言い方を変えれば、「理系であっても、文系大学の受験にほぼ必ず求められる英語についての知識は、最低限であってもある」という状況だといえるでしょう。
数学Ⅲ・Cをまったく学んでいない文系の生徒はいても、英語をまったく学んでいない理系の生徒はあまりいません。
そのため、文系の生徒が理系大学に挑戦するよりも、理系の生徒が文系大学に挑戦する方がはるかに容易です。
- 数学が得点源となり得る
上の「文系大学の方が比較的入りやすい」とも少し絡むのですが、文系大学の受験において、数学が得点源となるのもメリットのうちのひとつです。
国公立文系コースの場合、基本的には6教科8科目のなかから試験科目を選ぶことになります。
特に注目したいのが、「数学」です。
多くの国公立文系の場合は、数学Ⅰ・Aだけではなく、数学Ⅱ・Bも共通テストで受ける必要があります。
国公立のなかでも北海道教育大学などの場合は「数学Ⅰ・AもしくはⅡ・Bのいずれか」としていますし、川崎市立看護大学では「数学は選択式なので、まったくやっていなくても受験可能」としていますが、これらの大学はごく少数です。
文系大学であっても、国公立である以上、多くは高校2年生以降の数学が必要となるため、数学をしっかり勉強してきた理系の生徒はこれを得点源にすることができます。
また私立文系の場合、「数学は受験に不要。英語+国語に、地理歴史で受けられる」としているところが多くあります。
ただこの場合も、「数学を受験科目のなかに入れなくてもよい」であって、「数学は受験科目に入れられない」という状況は少ないといえます。
つまり、「英語+国語+数学」などの組み合わせで受けられるのです。この場合も、数学が得点源となります。
数学は高校生が学ぶ科目のなかでも非常に特異なものであり、「テスト時の点数のゆらぎ」が非常に起きにくいものです。
国語や英語は、どれほど得意な人であっても、出題傾向が変わると大きく点数を落としてしまう人も少なくありません。しかし数学の場合、基礎力と応用力がしっかりついていれば、どのような問題が出ても、点数が激減してしまうことはありません。
数学を得点源にできるということは、「安定して点数を確保できる武器を持っていること」とイコールなのです。
出典:
駿河台予備校教務課「文転を迷う人へ いつまでに決める?後悔しないために考えておきたいこと」
https://www2.sundai.ac.jp/column/howto/bunten/
文転の選択は慎重に! デメリットもある
物事を正しく判断するためには、メリットとデメリットの両方を知っておかなければなりません。
そこでここでは最後に、文転のデメリットについても紹介しておきます。
- 勉強時間を割いた科が、受験に使えない
- 文転に踏み切った時期によっては、勉強時間が確保しにくくなる
- 「大学に入学した後の進路」もしっかり意識することが必要
一つずつ解説していきます。
- 勉強時間を割いた科が、受験に使えない
文転におけるもっとも大きなデメリットのうちの一つが、「勉強時間を割いて勉強した科目が、受験に使えなくなる」ということです。
時間割は高校によって異なりますが、理系のコースに進んだ場合、3年生時点で数学Ⅲ・Cは週に5時間ほど組み込まれるケースも見られます。
毎日必ず数学Ⅲ・Cの授業が入ってくるわけです。
すでに述べたように、文転をした場合であっても、国公立文系の場合は数学Ⅱ・Bまでは使う余地がありますが、文系大学の場合は数学Ⅲ・C(特に数学Ⅲ)が受験科目に組み込まれる可能性は決して高くありません。
しかしたとえ使わない科目であっても、期末テストなどである程度の点数を取るために勉強は必須です。
「2025年の入試科目では、今後数学Cも重要視されるようになる」とはされているものの、文系大学に進む場合は「勉強時間を割いた科目が、受験科目として使えない可能性が高い(あるいは、使える大学を選ぼうとすると選択肢が少なくなる)こと」は頭に置いておくべきです。
- 文転に踏み切った時期によっては、勉強時間が確保しにくくなる
文転の難しさとして、「せっかく勉強した科目が、受験科目として使えない」というものを挙げましたが、「受験に必須となる科目の勉強時間が足りなくなると」も大きなデメリットです。
文系大学に進む場合は国語がほぼ必須になってきますが、理系コースの場合はこれの授業数が非常に少なくなります。
一例として同じ高校の3年次の国語のカリキュラム数を取り上げると、理系コースは1週間に8時間あるのに対して、理系コースでは3時間しかありません。
その差は、実に3分の1程度です。
「授業で習わなかった問題」の組みしやすさは、数学よりも国語の方が勝りますが、それでも文系の難関校を目指そうとする場合は、この「授業数の少なさ」「勉強時間の確保のしにくさ」が問題になってくるでしょう。
また、英語の学習時間が足りなくなる可能性もあります。
文転に踏み切った場合、「受験に必要のない科目の勉強に時間を割かれるうえ、受験に必要な科目の勉強時間が足りなくなる」という二重の試練が課せられることになります。
そのため、自宅での学習や、塾・家庭教師など外部の力を借りた学習が一層大事になってきます。
- 「大学に入学した後の進路」もしっかり意識することが必要
ここでは基本的には「大学受験のときの話」を取り上げてきましたが、大学に進学した後の進路にも影響を及ぼすことがあるのが文転という選択肢です。
文系と理系の卒業者の就職率はそれほど変わりませんが、「情報系のみ採用する」などのように卒業学部を限定して採用をしている企業も多くいるほか、高い専門性を持っている理系の方が内々定を順調に取りやすいというデータもあります。
また、文転を経た場合は、面接時などに「なぜ理系コースを学んでいたのに文系に進んだか」などを聞かれる可能性が高くなるので、しっかりと対策をしておく必要があります。
文転に踏み切るならば、私立にするか公立にするかの見極めも必要
文転にはさまざまなメリットとデメリットがあります。
これを理解したうえで、「それでも文系大学に進みたい」と考えたのなら、私立文系大学を目指すか、それとも国公立文系を目指すかを早めに決めるようにしましょう。
また、「勉強時間をできるだけ無駄にしたくない」ということであれば、希望する大学・学部のなかで、英国数で受験できるところを選ぶのも一つの手です。
私たちアクシブアカデミーでは、文転や理転を行う人を、またそれらを行わない人のことも、全力でサポートしていきます。



