高校生を指導する際に最も苦労するのが、目標を設定し、受験に対するモチベーションを最大限に高めることです。
受験勉強に本気で向かわせるためには「目標を絶対に達成したい」という強い思いをもって志望校を定めることが重要になります。
勉強のモチベーションが高まった生徒の偏差値を上げることはそれほど難しいことでありません。「モチベーションを高める」「受験校を決めて、受験戦略を組む」――この二つができれば、受験成功までの準備の大部分は終わっているといっても過言ではないでしょう。
まだ受験への意欲が高まりきっていない生徒に受験へのモチベーションを高めてもらうために、私は受験生を4つのタイプに分けてアプローチしています。子どもをいずれかのタイプにあてはめて、将来について考えさせることが受験勉強のやる気を喚起する上で有効であることがわかりました。それら4つのタイプの詳細について解説します。
自分の子どもがどのタイプに属するのかがわからない場合の対処法についても触れていますので、ぜひ、参考にしてください。
目次
早期に受験意欲を高めておくべき3つの理由
高校1年生、2年生の早い段階でモチベーションを高めて受験勉強に向かうのが、受験対策をする上で理想といえます。その理由としては以下のような点があげられます。
①復習範囲を最小限にできる
大学受験の勉強を高校3年生からスタートすると、1、2年生の2年間で習ったことの復習から始める必要があります。それと平行して3年生で新たに習うことも学習しなければならないため、学校の勉強と受験勉強の両立が難しくなるおそれがあります。一方、たとえば2年生の夏に勉強を始めたら復習する範囲は1年半分、2年生の初めなら1年分、1年生の夏なら半年分というように、始める時期が早ければ早いほど復習範囲はより少なくすみます。
②偏差値を上げやすい
模試の偏差値は、ライバルとの学力の差がどれだけあるかを数値化したものです。受験勉強を始めている高校生がまだ少ない、模試の平均点が低い段階で、努力して点数を上げれば、偏差値は飛躍的に向上します。その結果、「勉強をがんばれば成績が上がる」という実感を得ることができ、モチベーションも上がっていきます。逆に、皆が当たり前のように受験勉強をしている3年生の段階では偏差値を上げることが難しくなります。
③受験までの勉強時間の総量を増やせる
3年生の時点で偏差値45の場合、私立上位大学といわれるMARCH・関関同立に合格するには約1200時間の勉強が必要になります。また、1000時間あれば、高校初級程度の学力からでも日東駒専(日本・東洋・駒澤・専修)・産近甲龍(京都産業・近畿・甲南・龍谷)と呼ばれる中堅レベルの大学に合格する学力を身につけることが可能です。
2年生の4月から受験勉強を始めるなら、毎日3時間、1年生の4月からなら毎日1.5時間勉強すれば3年生までに1000時間を確保できる計算になります。もちろん、早期に勉強を開始し、1日あたりの勉強時間をもっと増やせば、さらにレベルの高い上位校や国公立大学等に合格できる可能性も高まります。
このように、早い段階から受験へのやる気を引き出すことは、その後の受験を有利に運ぶ上で重要になってきます。そして、まだ受験生になる実感がもてない子どもの受験意欲を高めるためには、目標設定が欠かせません。
「目標設定」で子どものやる気を確実に引き出す
これまで多くの高校生たちに接してきて強く実感していることは、確固たる目標をもっている子は、そうでない子に比べて成績の伸びが大きいということです。行きたい大学がある、大学に入って実現したいことがある子は、「絶対に叶えてみせる!」という強い気持ちがあるので、勉強のつらさや大変さを乗り越えていくことができます。目標の有無によって、受験勉強への身の入れ方が大きく変わってくることは間違いありません。
では、目標が定まっていない子どもに対しては、どのようにアプローチしていけばよいのか。
そこで私が編み出した方法が、子どもの志向を4つの型のいずれかに当てはめながら、受験への意欲を高めていき、志望校を定めていくというものです。
私が提唱している4つの型は、次の通りです。
・職業型
・学問型
・プライド型
・年収型
順にそれぞれのタイプを詳しく見ていきましょう。
職業型――なりたい職業が明確になっているタイプ
職業型は、将来なりたい職業を基に、「大学に入りたい」という気持ちを高めていくやり方です。
まず「医師になりたい」「自分は絶対弁護士になる」などと、子どもにすでになりたい職業があるのならば、それを実現するためにはどのような大学、学部に入る必要があるのかを考えさせます。
ただ、日ごろ多くの高校生に接していると「特になりたい職業はない」という子のほうが多く、世の中にどのような仕事があるのかもあまり知らないように感じます。親や親戚など身近にいる人たちが就いている職業くらいしか思い浮かばない子がほとんどでしょう。
その場合、まずは「どのような職業があるのか」を教えることが必要になります。
大学生が就職活動などの際に使う職業紹介本や就活用のサイトには、さまざまな仕事が紹介されています。そうしたものを見せながら、「この職業はどう?」などと、子どもの仕事に対する興味・関心の方向性を探っていくとよいでしょう。
たとえば、住宅関連の仕事に子どもが興味を抱いたような場合には、「それなら、住宅メーカーに勤めるという選択肢があるかも。住宅絡みの仕事といっても、設計や施工などいろいろあるみたいだよ」などと、より具体的なイメージをもてるように可能な限り話を掘り下げていくことが望ましいといえます。
高校生が職業について知っている情報は限られています。大企業の名前を知っていたとしても、その仕事内容まではわからないことがほとんどです。
資格試験の合格率が高い大学を志望校にする
もし、子どもが就きたいと思っている職業が一般企業ではなく、専門職や公務員の場合は、偏差値よりも国家試験の合格率や合格者数で大学を検討することができます。
たとえば一級建築士の試験(令和元年)での合格者数ランキングでは、1位日本大学192人、2位芝浦工業大学110人、3位東京理科大学95人、4位早稲田大学88人、5位近畿大学66人と、偏差値のランキングとは異なる順位になります。
大学によって受験者数が異なるので単純に人数だけで比較はできませんが、この年の一級建築士の合格率は12.0%と狭き門であったにもかかわらず、日本大学は合格者数ナンバーワンとなり、一級建築士の試験に強い大学であることがわかります。
志望した大学に入ることが将来就きたい職業に有利に働くのであれば、その選択に反対する理由はないはずです。しかしむしろ不利となる可能性があるのなら、やんわりと軌道修正を促す必要があります。
【この型の注意点】
・深く考えずに、イメージだけで職業を選んでしまう場合がある。
・医療系などの専門性の強い学部に進む場合、進路変更が難しくなることがある。
【おすすめ】
・オープンキャンパスに行く。
・めざす職業の業界動向や一日の仕事を調べる。
・実際にその職業に就いている人に話を聞く。
・医療系、弁護士、税理士、公務員など、資格や試験が求められる専門職の場合には合格率の高い大学を調べる(大学のホームページ、資料請求等で確認)。
・銀行員、工業系などの一般企業の場合には、書籍やインターネットなどを使って業界動向や主要企業名等を調べる。
・実際の仕事の内容や給料などを調べる。
・行きたい企業がある場合は、就職した卒業生が多い大学を調べる。
学問型――とことん追求したいことがあるタイプ
学問型は「哲学に興味があるから文学部の哲学科に行きたい」「戦国時代がとても好きで、史学科に行きたい」「遺伝子の研究をしたいから○○大学の生物科学科をめざす」など、追求したい学問が明確にあるタイプです。小さいころから人一倍好きなことや趣味があったり、マスメディアの影響を大きく受けていたりすることが考えられます。
たとえば学習系のバラエティ番組などを見ていた子どもが「○○先生の恐竜の話がとても面白かった」などと関心をもち、志望校選びの入り口となるケースがあります。ほかにもノーベル賞受賞などの学問関連のニュースに触れたことがきっかけとなることもあります。
このタイプの子どもは、「英語が好きで、英語が話せるようになりたい。だから留学できる国際学部や外国語学部に進みたい」「物理が好きだから理学部で勉強したい」というように、進学したい学部が固定されていくのが特徴です。
そのため、「早稲田なら何学部でもいい」とか、「同志社なら何学部でもいい」というように、どんな学部でもいいから少しでも偏差値の高い大学に行きたいという考えはあまりもっていません。工学部志望であれば、複数の大学の工学部だけを受験することになります。
学びたい学問を優先して大学を決めた場合、卒業後の進路として大学院に進み、最終的には学者や研究員としての道を選ぶケースが少なくないでしょう。また、博物館や美術館で学芸員として働くという選択肢も考えられます。
特に理系は学問型の傾向が強くあります。偏差値を重視して理系の学部を選んだ場合には、実験・研究が多いため興味のない学問では大学生活が苦しくなることもあります。
逆に自分のやりたいことと学部が一致していれば、高い水準で大学院へと進学する環境も整っています。工学部の国立大学では、旧帝大(北海道大学・東北大学・東京大学・名古屋大学・京都大学・大阪大学・九州大学)を中心に大学院への進学率が80%を超えるところもあります。
軌道修正を促すことが必要な場合もある
このタイプは学びたいことが明確にあるものの、卒業後に就きたい職業まで想像ができていないケースもよくあります。
「もっと偏差値の高い大学に入れるのに……」「仕事に結びつけるのが大変な学問だが将来は大丈夫だろうか」と、親として物足りなさや不安を感じることもあるはずです。なかには将来のことも考えて、学部を変更する子どももいますが、このタイプの受験生は究めたい学問が明確なだけに、一度決めるとひたすら突き進む傾向にあります。子どもが志望する大学に進学することが「将来役立つのか」「本当に正しい選択なのか」を、親の立場で冷静に判断し、助言することが必要となります。
たとえば、子どもが歴史もののテレビ番組に出演しているA大学の日本史の教授のファンになり、「この先生のもとで日本史の勉強をしたい」という意向をもっていたとします。その場合、A大学史学科の卒業後の進路をまずは調べてみるとよいでしょう。卒業生の進路を見ながら、少しずつ現実的な面に目を向けていくことで、〝受験のその先〟を考えられるようになります。
卒業後に活躍の場が多くあって、就職にも強いなど安心材料があればよいですが、もし、進路に対して不安があったり、経済的な理由から一人暮らしさせて通学させることができないなどの懸念事項があったりするのであれば、改めて検討する必要もあります。
また同じ史学科でも他の大学のほうが、卒業後の進路指導に力を入れていたり、専門職としてのスキルを身につける上でメリットがあれば、情報を見比べながらA大学に限らず別の大学でも学べることを教えたり、史学科のある大学に絞って志望校を選ぶとよいでしょう。
子どもがアクセスできる情報にはどうしても偏りや限界が出てくるものです。保護者の視点から多角的に知識や情報を与えて、修正してあげることが必要です。
【この型の注意点】
・やりたいことに突き進み、その先を考えていないおそれがあるため、大学卒業後について、親の立場で冷静に助言することが必要。
・国際学部のような人気学部の場合、倍率や偏差値が高くなりがちで、難易度が上がる。
・自分がイメージしている学問と、大学での授業内容が異なることがある。
【おすすめ】
・大学院進学も視野に入れて、大学のホームページを調べる。
・オープンキャンパスなどを利用して学部の活動を体験してみる。
・学びたい学問について詳しく調べる。
・その学問を学べる大学を、家庭環境も考慮に入れてリストアップする(国公立・私立、場所・地域など)。
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