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005.将来について考えさせ、受験勉強のやる気を引き出す ー目標設定②ー


 前回のこちらの記事では子供自身のなかである程度やりたいことがあるタイプについてご紹介しましたが今回はまだやりたいことが決まっていないタイプについてご紹介します。

 

プライド型――偏差値や名門大学にこだわっているタイプ

 プライド型は、「偏差値60以上の大学に行きたい」「頭がいいと思われたい」などと、自分のプライドを満足できるかどうかを基準に大学を選ぶタイプです。「周りの人に負けたくない」という意識が強くあるため、いつもライバル視している同級生や兄弟などと同等、もしくはそれよりも偏差値の高いランクの大学をめざすことが目標になってきます。

 このプライド型の子どもは、自らの固定観念や自分の育ってきた環境によって志望大学が左右されることがあります。

 たとえば、当初は進学してもよいと思っていたような大学であっても、友人が「この大学には行きたくないよね」「あの大学はレベルが低いよ」などと話しているのを耳にして、「あの大学には行きたくない、より上のレベルの大学をめざす」と、意地になって考えを変えてしまうことがあります。

 プライド型の子どもは、「行きたくない」と考えているレベルの大学が明確になっているため、自分のプライドを守ろうとする気持ちから勉強に向かいやすく、受験勉強へのモチベーションが継続しやすい傾向にあります。

 

【この型の注意点】

・大学名に執着し、学部を気にしない。

・偏差値を重視するため、あまり大学の内容を見ずに志望校を決める傾向にある。

・入学後に目標を見失うおそれがある。

 

【おすすめ】

・モチベーション維持のために、志望大学に不合格になったらどうするかを想像させる。

・大学ランキングを確認し、「この偏差値以上の大学に行きたい」というラインを明確にする。

・家庭の環境に合わせて志望大学をリストアップする。(国公立・私立、場所・地域など)

・合格後に大学での勉強に興味がなくならないように、早めに学部の内容を確認させる。

・入学したら次の目標を早めに設定できるよう、職業に目を向けさせるようにする。

 

年収型――高収入を得ることに憧れているタイプ

 「年収型」は、将来どれだけの年収を得たいのかが勉強を始める動機になるタイプです。この場合、○○万円以上の年収を得られる企業はどこか、職種はどれか、というように理想とする年収を得られる企業や職業を知るところから始まります。その上でそうした高年収の職に就きやすい大学はどこなのかと、理想とする年収をきっかけに受験へのモチベーションを高めていくのです。

 もちろん、年収が人生のすべてというわけではありません。お金がなくても幸せな人もいれば、逆にお金があっても幸せを感じていない人もいます。同じように、東京大学を出てもいわゆるワーキングプアの状態に陥っている人はいるでしょうし、大卒でなくても上場企業の年収より多くの所得を得ている人も大勢います。

 そうした現実が前提となりますが、高校生がなんとなく「大学に進学したい」と思うのは、「高卒よりもいい就職先に就けるだろう」「今よりも選択肢が広がるだろう」「大卒ならばきっと年収が上がるだろう」というようなものを漠然とイメージしているからです。ただ、その多くがまだ経験したことがないものばかりなので、どれも単純なイメージになりがちです。その点、お金は普段から自分でも使っているため、物事の価値を測る物差しになりやすく、企業や職業を比較検討する際に理解しやすいのです。

 参考までに、実際に私がこのタイプの子どもに行っている指導を紹介しましょう。

 まずは、雇用形態や企業により、得られる年収にどれだけ違いがあるのかを示します。

 図表2-2で示したように、得られる平均年収はフリーターであれば192万円、一般的な日本企業であれば436万円、上場企業であれば630万円、たとえば日本で最も平均年収が高いと言われるような会社なら2269万円(M&Aキャピタルパートナーズ株式会社第15期有価証券報告書より引用)です。このように比較をして、「フリーターと上場企業ではこれだけ差があるのか。500万円以上の年収は上場企業に入らないとダメなのか……」というように、年収に関する大まかな実感を与えてあげるわけです。

 大人にとっては、こうした年収の一般的なイメージは常識となっているところがありますが、高校生にとっては決してそうではありません。また職業と年収の関連性について正しい知識をもっている子どももほとんどいません。

 たとえば地方の高校生の間では、「安定しているから」という理由で公務員が人気職業となっています。しかし、公務員が具体的にどれだけの年収を得られるのかを尋ねられて、答えられる高校生はあまりいないでしょう。親や学校の先生など身近な大人たちが「公務員になれば安定した年収が保証される」と話すのを耳にして、「それなら公務員になろう」と思っている人が多くいます。

 

・お金の話に対する高校生の興味は大きい

 それほど深く考えることなく公務員になろうと思っていた高校生が、公務員以上に年収を得られる職業があることを知ったとしたら、どうでしょうか。「公務員よりも年収が高いのなら、その職業もいいな」と思う子どももいるでしょう。それが、やる気を起こすきっかけになる可能性があります。そうした効果を期待して、世の中には高収入を得られる職業が公務員以外にもいろいろあるということを、できるだけ具体的に教えるようにしています。

 一例として三菱商事の平均年収をみていきます。同社は2019年度有価証券報告書のなかで①従業員数、②平均年齢、③平均勤続年数、④平均年間給与をそれぞれ次のように示しています(なお④については、残業代と賞与も含まれています)。

① 従業員数 5882名

② 平均年齢 42.6歳

③ 平均勤続年数 18年5カ月

④ 平均年間給与 1631万8794円

 平均年収が約1600万円ということは、単純計算で約133万円の月収であることを意味します。こうした事実を伝えると、高校生たちは「自分の小遣いは月5000円なのに!」と驚きます。

 このように平均年収を数字で示したあと、さらに三菱商事から内定を得ている人の出身大学を見せていきます。するとその多くが東京大学や早稲田大学、慶應義塾大学などの難関校であることがわかります。こうした情報に接して「それなら自分も難関大学をめざそう」と決意することもあるはずです。

 実際、このようにお金の話に落とし込んで説明すると高校生たちの反応は非常によく、志望校選びにより熱が入る印象です。ぜひ、ご家庭でも試してみてください。

大企業への就職を偏差値に置き換える

 年収型に関して、もう一つ別のアプローチについても触れておきましょう。

大卒と高卒の生涯賃金の差は6000万円あるといわれています。また、いわゆる〝大企業〟と呼ばれる企業規模1000人以上の企業(正社員の男性)では、生涯賃金が3億1000万円になるといわれていますが、企業規模10〜99人では2億円とみられています(「ユースフル労働統計2019労働統計加工指標集」独立行政法人 労働政策研究・研修機構より)。

 つまり同じ大卒でも入社する会社によって1億円強の差が生まれるわけです(ちなみに生涯賃金が10億円を超える会社もあります)。

 2016年の「経済センサス―活動調査」(総務省)によると、個人事業主を含む中小企業は、企業全体の99.7%、従業員数で68.8%を占めます。ここからわかるように、誰もが名を知る大企業に勤める人は、人口でいうとほんの一握りに過ぎないということなのです。

こうした社会人が知っている情報を、多くの高校生は知らないことが珍しくありません。親御さんが、受験を機に教えてあげるとよいでしょう。

 ここで、図表2-3を見てください。偏差値55以上の難関大学に行ったとすると、受験生の上位30%付近になります。ここを進学の目標にすると、子どもには将来と今の受験勉強の目標がひも付き、数値として追いかけることができるようになります。

 このように、高年収の企業をもとに入りたい大学を決めて、モチベーションを上げていくのです。

 

【この型の注意点】

・大学名に執着し、学部を気にしない。

・偏差値を重視するため、あまり大学の内容を見ずに志望校を決める傾向にある。

・入学後に目標を見失うおそれがある。

 

【おすすめ】

・身近な企業の年収を調べる。

・有名企業への就職率が高い大学を書籍やインターネットで調べる。

・「〇〇大以上を狙う」というように目標とする大学を決める。

どの型にも当てはまらないときの対処法

 子どもが、①職業型、②学問型、③プライド型、④年収型の「どれに該当するのかわからない」というときにはどうしたらよいのでしょうか。

 そのような場合には、次のような形で掘り起こしてみると、子どものタイプが明らかになることがあります。

① 職業型の掘り起こし方法

 「あなたにとって嫌な仕事は何?」などというようにあえて「やりたくない仕事」について、じっくりと考えさせてみましょう。消去法で考えていくことで、自分の興味のある仕事がおのずと見えてくるはずです。

② 学問型の掘り起こし方法

 まず学部学科の概要の書いてある大学のガイドブックやホームページなどを見て、自分が興味のある学部学科か、興味のない学部学科か、それ以外かの3つに大まかに分類します。その後、興味のない学部学科以外の学部学科の詳細を見ていきます。

 詳細を見ているうちに、知らなかった学問の内容を知り、興味をもち始めることもあります。こうした作業を行って、なかでも特に行きたいと感じる学部を絞り込んでいきます。

③ プライド型の掘り起こし方法

 子どもの高校の進学実績を参照しながら「合格者が一番多いのは○○大学、成績上位の子は××大学や△△大学に進んでいるみたい。同級生よりも偏差値が低いところでもいいの?」などというやりとりをしているうちに、自然と志望校のランクが上がっていき、「〇〇大以上を狙う」と目標が定まっていくでしょう。

④ 年収型の掘り起こし方法

 「時給1100円だとすると、週40時間働いても、月(4週間)160時間×1100円の計算から17万6000円しか収入が得られないけれどいいの?」「家は一軒家に住みたいの? 都会に住みたいの? 家賃は?」などと年収が関わってくる将来の希望を尋ねるなどして現実的なイメージを与えていくと、「最低でも○○○万円ぐらいの年収はほしい」という思いが生まれ、「そのためには、○○レベルの大学に行かないと……」となるはずです。

 特に、③プライド型と④年収型は、私の経験上、このような掘り起こし方法が大変効果的でした。志望校がスムーズに決まることも珍しくありません。

 

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