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009.「勉強しなさい」では勉強しない受験生 —モチベーション管理②—


部活は勉強しない理由にはならないことを自覚させる

 受験勉強の開始を遅らせる原因の一つとして、「部活と勉強の両立」という大きな課題があります。実際、「部活で疲れて勉強ができない」という高校生は少なくありません。部活に熱中していると、どうしても勉強よりも部活を優先しがちです。特に体育系の部活では土日も練習や試合があることが多いので、学校以外の勉強の時間がほとんどない状態になります。それでも子どもがせっかく熱心に取り組んでいることに対して否定したくない、口出ししづらい、というのが保護者の気持ちではないでしょうか。

 しかしなかには、部活に対してそれほど思い入れがないのに、なんとなく続けている子どももいます。この場合、部活を辞めることを提案すると、あっさりと辞めてしまうことも珍しくありません。ただし部活が義務づけられている高校では、自分だけ辞めることは難しいでしょう。そのような場合には、比較的活動に時間を取られないようなもの、体力的に負担の少ない部活に移るという方法も考えられます。

 団体競技の部活の場合は、チームワークや団結力が日ごろから大切にされ、受験勉強を理由に自分だけが辞めることに決心がつかないのは容易に想像がつきます。そうした状況であれば、他の部員に対して、現状を改善するために活動時間を短縮する、土日は部活を休みにするなどの働きかけを行うよう、子どもに促してみてもよいでしょう。

 ただ、部活にやりがいを感じていて、部活を辞めたり、変えたりすることなど全く考えられないという子どももいます。この場合、勉強も部活も両立させたければ、質の高い勉強をしなければならないことを教える必要があります。

 私も高校時代は部活を一生懸命やっていましたし、部活で得られることは非常に多いと思っています。ですが、「部活をやっているから勉強時間がとれなくて当然」などと考えていると、部活をやらずに一生懸命勉強している人と比べて、どうしても勉強時間は少なくなります。大学受験はそのような状態で合格できてしまうほど甘いものではないのです。

 限られた地域のなかで競争する高校受験と違って、大学受験は〝全国勝負〟であり、ライバルは同じ高校の同級生たちだけではありません。都市部の中高一貫校では、通常の公立高校よりもはるかに早いペースで学校のカリキュラムを一通り学習し終えます。また、部活の引退時期も3年生の夏でなく2年生になっていたり、高校3年の秋以降に学校が半日になったりするところもあります。受験勉強の時間をより確保しやすくするためです。

 通っている学校の常識にとらわれず、「他の高校にはもっと勉強をしている子がいる」「より勉強ができる子がいる」と、受験に関する子どもの視野や価値観を広げることも必要です。そうすることで、「部活を続けるためには勉強も手を抜くわけにはいかない」といった意識変革につながります。

ほめられれば勉強へのモチベーションがさらにアップする

 どんな子どもでも、「親に認めてもらいたい」という気持ちをもっています。高校生になっても、そうした思いに変わりはありません。保護者からほめられれば、「よし、もっとがんばるぞ」と勉強へのモチベーションが格段にアップするはずです。

 「うちの子はほめるようなところがないから」と謙遜する保護者も多いのですが、ほめるタイミングは、定期テストや模試の点数が上がったときといった〝結果〟が出せたときだけとは限りません。これまで勉強にやらされ感のあった子どもが、自ら机に向かうようになった、自習室・図書館等に毎日通うようになった、というように勉強に対する姿勢の部分――要するに〝プロセス〟をとりあげて評価してあげればよいのです。

 実際のところ、テストの成績は試験を受けたときの心身の状態など、その時々の状況にも左右されますし、教科によっては勉強の成果がすぐに現れないものもあります。

 たとえば、模試で英語の成績を上げるためには、語彙(単語・熟語)と文法の知識をおさえた上で、読解の練習も行わなければなりません。これらすべての勉強をこなすためには相応の時間が必要になります。結果を急がず、長い目で見守ることが求められます。

 成績や勉強内容に関してはほめにくい場合もあるでしょうから、「毎日、勉強するようになって偉い」「最近夜遅くまでがんばっている」などと子どもが努力している姿、一生懸命に取り組んでいる様子を認めてあげて、自信をつけさせることをおすすめします。

「勉強しなさい」では勉強するようにはらない

 積極的に評価するのとは逆に、子どもの受験に対するモチベーションを大きく下げてしまう保護者の言葉があります。

 それは「勉強しなさい」です。

 「私が大学受験した時は必死で勉強をして、あなたのようにダラダラしていなかった」「お兄ちゃんのときは」「お姉ちゃんのときは」……などと誰かと比較して、勉強をしていない状態に対して口を出したくなることは多いと思います。

 子どものことを考えれば考えるほど、そうした現状が気になってしまうのはわかります。ただ、「勉強しなさい!」と叱咤するのはぐっとこらえて、勉強をしない理由を尋ねましょう。すると、「実は最近、志望校のことで悩んでいる」とか、「英語の点数が上がらない」などといった悩みがあり、そのために勉強に前向きになれずにいることがわかる場合もあります。

 また、さしたる悩みもないのに勉強に向かえていないのであれば、モチベーションが低下している可能性があるので解決策をいっしょに考えてあげましょう。

家庭の金銭状況を子どもに伝え、一緒に打開策を考える

 

 経済的な理由から、本当に行きたい大学を諦めなければならないこともあります。大学進学に必要な費用の問題も、子どものモチベーションに大きく関わってきます。

 先に触れたように、大学の選択は子どもの将来を大きく左右します。人生でこの上なく重要な選択であるにもかかわらず、第一志望の大学に挑戦すらできない状況では、モチベーションにマイナスの影響を与えかねません。

 もし、お金の問題で子どもの望みをかなえることが難しい状況にあるのならば、奨学金や教育ローンを利用して解決するという方法があります。いずれも返済が必要となりますが、奨学金は条件によっては無利子ですし、教育ローンも通常、利率は低いので返済の負担を抑えることができます。

 日本学生支援機構の「学生生活調査(平成30年度)」によると、何らかの奨学金を受給している割合は、47.5%です。

 また、同調査では、アルバイトをしている大学生は86.1%で、アルバイトでの平均収入(1年間)は、40万1500円。年間100万円以上稼ぐ学生もおり、学費や生活費の一部をアルバイト代でまかなっているケースも多くあります。

 なかには、できれば子どもに〝借金〟を負わせたくないという保護者もいますが、この場合子どもの将来に対する投資という側面もあります。奨学金を受けるかどうかについては、この点も踏まえた上で、子どもと十分に話し合って検討してほしいと思います。

 大学進学にかかる費用を解決する方法としては、2020年4月から国が実施している高等教育無償化(高等教育の修学支援新制度)というものもあります。この制度は、低所得世帯の高等教育の負担を軽減することを目的としており、世帯年収が380万円未満の場合一定の条件に該当すると、国の確認を受けた大学等の入学金と授業料が減免され、原則として返還が不要な給付型奨学金の支給を受けることができるというものです。

 条件を満たすようであれば、このような制度の利用も積極的に検討してみてください。

受験自体にもさまざまな費用がかかる

 大学に進学した場合に支払わなければならない主な費用としては、入学料と授業料があげられます。文部科学省が定める標準額によれば、国立大学では入学料が28万2000円、授業料が53万5800円、公立大学では入学料が39万3426円、授業料が53万7809円になります。

 親世代の多くが大学に進学した1986(昭和61)年、今から35年前の授業料をみてみると、国立大学は25万2000円、私立大学は49万7826円です。それと比べると約2倍になっていることがわかります。

 また、大学受験では、思わぬところで多くの費用がかかります。それを知らずに大学に入学してからの学費だけを想定していると、大きな誤算に悩まされることになりかねません。

 受験にはどのくらいの費用がかかるのでしょうか。順にみていきます。

最近では割引制度もある受験料

 大学に合格した場合には、合格をキープしておくために入学金を支払わなければなりません。ただし、この入学金は基本的に返金されません。

 文部科学省によると、私立大学の入学金の平均額は24万9985万円(2018年度)です。この支払いが1回だけではなく、受験の方法によっては複数回必要な場合もあります。

 国公立大学を受験する場合には、私立大学との受験日に開きがあるため、最低でも1大学には入学金を納めることになるでしょう。

交通費と宿泊費もかかる

 地方に住んでいる受験生が地方受験に対応していない大学を受験する場合、大学の所在地まで試験を受けに行かなければなりません。そのための交通費と宿泊費も必要になります。

 地方受験とは、地方に住んでいる受験生のために、地方の中核都市などに本学とは別に受験会場が設けられるものです。一方、本学での受験は本学受験と呼ばれています。現在、私立大学の多くは地方受験を実施していますが、なかには本学受験しか行っていないところもあります。そうした地方受験を行っていない大学を受験する場合には、地方から東京等の遠方に足を運ばなければならなくなります。

 また、地方受験に対応している大学を受験する場合でも、自宅から受験会場までが離れていれば、会場の付近に宿泊する必要が出てきます。親も受験に付き添う場合には、親の分の交通費や宿泊費もかかります。さらに、国公立大学の入試では試験が2日間にわたることが多いため、前泊を含めて2泊するのが一般的です。

 また、関東の私立大学の最難関である早慶上智と上位校のMARCHを受験する場合には、体力や移動時間のロスを考えて、2月上旬から2月下旬まで20日間ほど東京近郊に宿泊する受験生も珍しくありません。

 

 以上みてきたように、大学の学費はもちろん、受験にかかる費用だけでも結構な額になります。

 大学受験では定員割れしている私立大学が3割と数多くある一方で、人気大学の倍率は依然として高いのです。

 お金をかければ受験回数を増やすことができ、志望大学の合格の可能性を高められるようになってきました。しかし、その分、受験制度が多様化し、複雑になってきています。受験にかかる費用を節約しつつ、合格する可能性を高めるためにも、受験校の選定や受験戦略がこれまで以上に重要なポイントとなるのです。

 私立大学のなかには、入試の高得点者に対して授業料が国公立並みに安くなるような奨学生制度を設けているところもあります。「大学は学費が高い」と決めつける前に、「何か解決策はないだろうか」と調べるなどして、有益な情報を得る努力が必要です。

 また、金銭的な事情が大学受験の障害になり得る場合には、世帯収入など家庭の金銭状況を子どもに正直に打ち明けましょう。事実を伝えることに恥ずかしさや抵抗を感じるでしょうが、何も知らないまま一方的に「○○大学はダメ」と言われるのは、子どもにとってあまりにも理不尽です。子どもたちは自分の人生をかけてがんばろうとしているのです。あるがままの事実を伝えて打開策を一緒に考えれば、子どもは「親は自分のことを真剣に考えてくれている」と思えるものです。

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