大学受験で成功するためには多くの勉強時間と集中力が必要になります。この学習の量と質の向上を「気合いで努力する」という方法だけでは、成功できる確率が下がってしまいます。なぜなら人間は継続が苦手な生物だからです。そのため、気合いや努力だけでなく、科学的に効率良く勉強できる方法や習慣を変えていくことで、学習の量も質も向上させることができます。効果的な方法は早い時期から実践し、その勉強時間が長くなるほど効果が高まります。今回は勉強を習慣化させるためにどうしたら良いかをお伝えします。
目次
勉強を習慣化するためにすべきこと
いざ勉強を始めようと思っても、なかなか気持ちが乗らない。とりあえず部屋の片付けをやってみたり、新しい参考書を買ってみたものの数日の勉強だけで終わったり。。いつの間にかスマホばかり触っていませんか?三日坊主という言葉があるように、誰でも挫折したり中断した経験があると思います。目標を持ち計画を立て「さぁやろう!」と未来の輝いている自分を想像して数日勉強することは、誰にもできます。でも生徒を見ていても勉強内容よりも、気持ちの継続と習慣化が受験の中で最も難しい部類に入ります。しかし逆に気持ちを継続して、勉強を習慣化できれば成績は上がっていきます。
心理学者ウェンディ・ウッド氏の研究によると1日の3分の1から2分の1の時間は習慣的な行動が行われているようです。つまり、勉強にとって効率の悪い習慣を減らし、いかに効率的な勉強を習慣化できるかによって受験の成果は大きく変わっていきます。
三日坊主で終わってしまうのは、自分が怠け者だからというよりも、脳の働きが影響しています。人間は継続が苦手です。普段身体の中で最もエネルギーを消耗しているのは脳です。脳は身体の2%ほどの重量しかないのに、エネルギーの約20%を消費すると言われています。できるだけエネルギー消費を抑えるために、慣れていること、習慣になっていることを惰性でやろうとします。そのため、慣れないことに自然と抵抗し、やめてしまうようです。
でも脳のせいだからといってやらないわけにはいきません。どうすればそんな脳と向き合って勉強脳に変えていけるのかをお伝えします。
勉強が習慣化するまでの期間
カナダのビクトリア大学では、週4回以上取り組むことで、6週間以降も継続率が飛躍的に伸び、ロンドン大学では、習慣が定着する期間は18〜254日で平均66日という研究結果がでました。ビクトリア大学の研究ではスポーツジムの継続率、ロンドン大学のものは幅広い日常的な習慣についての研究でした。大まかにいうと、習慣化には2ヶ月間、週4回以上の継続を目安にすると良いでしょう。しかし研究結果にはばらつきもあったため、勉強の習慣化という点についてもう少し深くみていきます。
習慣化コンサルタントの古川武士氏によると、習慣化したいもので期間が異なるといいます。
これによると、毎日勉強をするという習慣は約1ヶ月で定着させることができるようです。さらに習慣化までには3段階あるようです。本能的に変化を嫌う反抗期を乗り切るために、はじめの1週間をいかに超えられるかがポイントになると思います。この3つの期間を乗り越え、学習を習慣化するためにどうやって乗り切るかお伝えしていきます。
勉強が習慣化するまでの要素とすべきこと
勉強を習慣化するためには5つの重要な要素があると考えています。
脳科学者の片岡洋祐氏によると、勉強をスタートする時点で大きな活性化エネルギー(乗り越えなければならない壁)を超える必要があるそうです。そして、一度スタートすると、疲労するまでは勉強を継続することは楽になります(活性化エネルギーを超えて、より低いエネルギーレベルへ到達した状態)。例えば、台車に重い荷物が乗っている状況をイメージしてみましょう。最も力が必要なのは一番最初(止まっている状態)から動かす時で、動き始めてしまえば少ない労力で動かすことが可能です。すなわち、行動を起こすためには最初の活性化エネルギー(動かす為の力)を超えることが重要なのです。活性化エネルギーを超えやすくするためには2つの方法があります。
一つは精神力で、「がんばらないといけない!」と考えて、「えいやあ」と高い活性化エネルギー(重いものを動かす)を根性・気合で超える方法。
そしてもう一つが、活性化エネルギーの高さを「酵素」をつかって下げる(荷物自体を軽くして動かしやすくする)方法です。この酵素役にはさまざまなものがあります。例えば、教科書を開かなくてもすぐに勉強が始められる体制づくりだったり、他には先生と気が合う、予備校の部屋の居心地がよい(例:観葉植物がかっこよく飾ってある)等です。高い活性化エネルギーを根性・気合いで越えるように働きかけるのが「モチベーション」、酵素役が「テクニック」に近いニュアンスです。どちらも重要でそれぞれが両輪で動いていると考えられています。
習慣化の第一歩 活性化エネルギーを上げる
まず一歩を踏み出すために必要なことは、「志」「道筋」「自己効力感」の3つです。先程出てきた活性化エネルギーを根性・気合で超える方法にあたります。「志」は、なぜ勉強をするか、なぜその大学・学部を目指すのか、という勉強する目的を明確にすることです。どんな目的でも良いですが、そこに強い気持ちがあればあるほど、自分を律し、継続と他の誘惑を断ち切ることができます。また、「道筋」はその目標に現状からどのようにして届くのかの俯瞰した長期戦略が見えて、今から何を勉強していけばよいかと短期計画が明確になること。そして、「自己効力感」はそれらを「自分ならできる」「きっと大丈夫だからやってみよう」と前向きな気持ちになることです。この3つの要素が合わさり勉強への第一歩を踏み出すことができます。
ここでの注意点は、一歩目はできるだけ小さく簡単に達成できる課題を設定することです。そして、この課題達成が今後の勉強において非常に重要なプロセスであることをよく理解し、「できた」を実感することが重要になります。
習慣化の継続テクニック 活性化エネルギーのハードルを下げる
次に踏み出した一歩を継続していくために必要なことは、「ゲーム性」と「環境」の2つです。
継続の2要素 | 内容 |
ゲーム性 | 適切な難易度設定・スピード感・報酬 |
環境 | 周りの空気・協力者・手間がかからない勉強との距離 |
継続の要素ゲーム性について
まずはゲーム性です。これが生徒には一番イメージし易いと思います。簡単に言うと勉強をすることが楽しいという感覚になれば良いわけです。
スマホやテレビゲームを思い出してみてください。ゲームでは目の前の課題や敵をクリアすると、敵も少しずつ強くなります。それを超えると報酬がもらえて、自分も強化されていく、また敵も強くなっていくことを繰り返します。成長がわかり、サクサクと進んでいく。簡単すぎるゲームではすぐ飽きてしまうし、難しすぎると諦めてやめてしまうと思います。
このような状態を勉強でもスモールステップで達成していくのが理想です。そのために、適切な難易度設定・スピード感・報酬の3点を意識します。
はじめに非常に重要なものが、適切な難易度設定です。勉強を継続する上で、モチベーションに大きく影響を与えるのが難易度です。一般的にアスリートが集中力が高くパフォーマンスが向上する状態を「ゾーンに入る」と言います。心理学的には、時間を忘れて、他のことが気にならないくらい没頭している集中状態のことをフローと言います。
コロンビア大学の研究では難易度設定が難しいけどできそうな状態で勉強をしてるときが集中力が持続でき、難易度が上がると集中力は下がっていき、問題が簡単すぎても、集中力は大きく下がることがわかっています。つまり、高いモチベーションと集中力があるフローに入るためには、難しいけどできそうという難易度設定が大事です。これを勉強で考えると教材を選ぶ理想は「25-50%は現状でも正解できる」かつ「解説読んだら90%以上は理解できる」です。
残りの要素であるスピード感と報酬に関しては、目標を大きくしないことが重要です。勉強は英語のように「単語」「文法」「構文解釈」「読解」など要素が複数あり、簡単には模試の結果に現れないものがあります。そのため、特に勉強が習慣化されるまでは、模試の結果を求めるのではなく、英語であれば翌日に英単語テストを実施する、歴史であれば一問一答テストを実施するなど、ハードルを下げて結果を見えるようにしていきましょう。勉強の悩みは成績を上げることでしか解決できないことが多いため、点数を取れたという結果が報酬になることが多いです。また、点数だけを求めるのでなく、習慣化のための朝8時に勉強を開始できたらアプリを1日で30分使える、1週間勉強を継続できたら好きなドラマを1本見る、などの報酬を設定するのも無理をしないコツです。
どうしても模試の結果にこだわりたいのであれば、スピード感を出すために科目を絞って短期集中で点数を上げに行くことをおすすめします。
継続の要素環境について
次に勉強を習慣化するための要素である環境については周りの空気・協力者・手間がかからない勉強との距離の3つを意識します。
周りの空気
アメリカの起業家ジム・ローン氏は「あなたの周りの5人の平均があなたである」という有名な言葉を残しています。人は無意識のうちに、言葉使い、趣味、思考、など、様々な面で周りの人の影響を受けます。中には自分の意志が強く、影響を受けにくい人もいるでしょう。そのため、どこまで影響されているかは人それぞれですが、無意識のうちに何かしらの影響を受けていることは間違いないでしょう。
人間には周りの和を乱さず自分が行動を合わせてしまう「同調」という性質があります。大学進学する生徒が少ないクラスや、勉強をしない生徒が多いクラスの中で、勉強を開始する第一歩を踏み出すのは相当な勇気が必要になります。しかし、周りに難関大学に行く生徒が多く、1年生から勉強するのが当然と考えているようなクラスであれば、その第一歩は踏み出しやすいでしょう。周りの人から離れて一人異質になるのは、大変なことです。また、同様に自分が勉強する第一歩を踏み出しても、友人からゲームやドラマの話を毎回されたり、SNSで連絡が頻繁にくるとその誘惑に負けそうになるものです。逆に周りが勉強していて、目標や困難を共有していると自分も頑張ろうと思いやすいものです。
そのため、自分が頑張ろうと決心したら、自分と一緒に頑張ろうと周りを巻き込むのが良いでしょう。または、自分から自分の達成したい環境に飛び込むことも良い一手です。予備校に通ったり、勉強するのが普通な友人と話すのがオススメです。
協力者
勉強の難しいところはすぐに成果が可視化されないことです。特にはじめはつらいもので、すぐに目に見える成果が得られないとどうしても継続しづらくなります。これはダイエットと似ている部分があると思います。ダイエットも継続がなかなかできずにトレーナーの需要が多くあります。これは一人では習慣化するまでに可視化されず諦めてしまう人が多いからだと思われます。勉強も同様です。まず成果の可視化、つまり前述してきた報酬が重要です。その次に協力者の存在です。志の継続は非常に難しいものです。そのために、家族や一緒に勉強を頑張る友人、予備校の先生など協力者がいると良いでしょう。協力者に自分の目標を伝えたり、サボりそうになったり心が折れそうになったりしたときに伴走してもらえるような人がいると継続することができます。
手間がかからない勉強との距離
人間は手数が増えるほどやらなくなるという研究結果があります。勉強を習慣化するためには、脳が面倒だと考えず、さらに身体もなるべく使わないでスタートできる環境を作ってあげる必要があります。したがって、机が整理整頓されていることは、勉強をスタートするのに小さなエネルギーで可能になります。壁に覚えるべき内容を貼ったりすることで、教科書を開く必要性を減らせば、さらに勉強をスタートしやすくなります。このように勉強を始めるまでの手間を減らして、活性化エネルギーのハードルを下げることを意識していくことで勉強を継続することができます。
そのための一つの方法として、アクショントリガー(行動するきっかけ)を設定して習慣を連続させるのが良いと言われています。「寝る前にお茶を飲む」「ご飯を食べたら歯磨きをする」などはこのアクショントリガーで習慣で行動しているものです。
例えば「電車に乗ったら英単語帳を開く」「お風呂を出たら1時間今日勉強した内容を復習する」など、普段の行動と勉強を紐づけてあげると、勉強を始めるまでの面倒だなというマイナスの感情を取り除くことができます。このように勉強を始める場面の前段階に普段の行動と結びつけて、なるべく低い目標や時間の設定をしてあげると継続がしやすくなります。特にはじめは勉強に抵抗感があるので、時間や場所を決めて「寝る前に明日の勉強道具をバックに入れる」「朝8時には自習室にいく」「自習室についたらスマホはマナーモードでバックに入れる」のようにアクショントリガーを設定しておくことがおすすめです。
アクショントリガーと、目的のアクションとの間には必然性が大切で、眠くても、やる気が起きない時でもどんな状況でもアクショントリガーからアクションへ簡単に移行する、できれば無意識に近く移行できる関係が理想的です。例えば夜、洗顔して乳液を顔につけるとします。洗顔がアクショントリガーで乳液がアクションとなりますが、その場合、洗顔液が入った容器と乳液の入った容器はとなりに並んでいることが大事で、目を閉じていても容器をとれるように設定しておくことが肝心です。それを勉強に置き換えると、例えば定期券の入っている同じところに英単語帳が入っているとか、お風呂の脱衣所に濡れた手でページをめくる必要のない歴史年表が置かれている等で優れたアクショントリガーを設定できます。つまり、やれない理由や条件をつぶしておくことが大切になります。
人間の手数が増えるほどやらなくなるという性質を活かして、逆にすぐにやってしまうスマホを触るまでの手数を増やすこと、例えば勉強中は玄関にカギのかかった箱の中に置くとか、ロックナンバーを複雑なものにするなどがおすすめです。もちろん初めはアクショントリガーになったらそのルールに基づいて勉強するという意思が必要です。これを習慣化するまでの期間続けていくことが継続のポイントです。
また、悪習慣を無くすことも重要です。自分にとってプラスがなく、惰性で継続してしまっているSNSや娯楽は受験ではなくしていく必要があります。その時間を認識し、それを無くすことでどれくらいの時間が捻出されるか普段の習慣を書き出し、可視化してみましょう。
まとめ
受験勉強の始め方と継続についてお伝えしてきました。受験が自分にとって、やった方が良いもの、やらないといけないと位置づけているものなのであれば、どうせやるなら、最大の効果を苦しまずに楽しんで出せるように様々な情報を入手し、自分が継続できる方法を模索してもらいたいです。
また、特に始めのうちは、始めてみたけれど、結局三日坊主になってしまったということもあると思いますが、目標の100点は達成できなくても、そのときの自分に出せる100%を発揮するように心がけましょう。もしできていなくても、三日坊主になってしまったとしても、それをどのように改善していくかを考えて、試行錯誤して受験に向かっていってもらえたらと思います。
もし保護者の方がこの内容を読まれている場合は、習慣化の際に親として重要なことは、結果でなく、行動を評価することです。勉強は習慣化するまでにすぐに結果がでるものではありません。そのため、褒めるポイントは数値でなく行動にすることで、子にとっても伴走されている、一人でないことで、習慣化の助けになります。習慣化を目指している始めの1ヶ月は特に結果を見ずに、行動に焦点を当てましょう。
アクシブでは勉強を習慣化する方法も紹介しています。こちらもあわせてご覧ください
技術協力:片岡洋祐氏(脳科学者)
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